ダラダラ日記のようなもの

ダラダラと日々の日常を綴っていくブログになります。

再出発への道のり

陽気」が表すのはどんな天気か – 毎日ことばplus

 

 

春の陽気に包まれた午後、妻と私は津市の免許センターへと車を走らせた。運転席に座る妻の表情には、不安の色が濃く滲んでいた。私は妻の横顔を見つめながら、彼女の心中を察した。

 


きっと妻は、看護師から聞いた話を思い出しているのだろう。薬の影響で適性検査に引っかかる人が多いという話を。その不安が彼女の表情に現れていることが、私にもよく分かった。

 


一方で私は、自信に満ちていた。元自動車教習所の教官としての経験、そして今まで事故を起こしたことがない自負が、私の心を支えていた。「絶対にクリアできる」という思いが、胸の内でしっかりと根を下ろしていた。

 


しかし、妻の不安げな様子を見ていると、私の心にも小さな迷いが生じた。確かに、以前のような運転ができるかどうかは分からない。その不安を完全に拭い去ることはできなかったが、それでも前を向く必要があった。

 


私たちは言葉を交わすことなく、それぞれの思いを胸に抱えたまま、目的地へと向かっていった。沈黙の中にも、互いを思いやる気持ちが静かに流れていた。

 


一時間半の道のりは、まるで人生の縮図のようだった。起伏のある道を進み、時に急カーブを曲がり、それでも着実に目的地へと近づいていく。

 


予定より30分早く到着した免許センターは、予想以上に静かだった。午後4時という時間帯のせいか、ガランとした室内に人の気配はほとんどなかった。職員も2、3人見かけただけで、私たち以外の受験者らしき人は、先に適性検査を受けていた1組の夫婦だけだった。

 


2階の適性検査室前で待つ間、私は深呼吸を繰り返した。妻が私の手をそっと握る。その温もりが、不安を少しずつ和らげてくれた。
呼び出しの声が響き、私たちは部屋に入った。妻が隣に座る安心感を背に、私は検査員と向き合った。

 


「お名前と生年月日を教えてください」

 


その言葉に応じながら、私はお薬手帳を差し出した。検査員がそれを黙々と見つめる様子に、私の緊張は高まるばかり。妻も息を潜めて様子を窺っていた。しかし、予想に反して薬の話題は出なかった。

 


代わりに、事故の経緯や身体の動きについての質問が続いた。左手の撓骨神経麻痺についても正直に伝えた。片足立ちや歩き方のチェックは、まるでサーカスの芸人になったような気分だった。

 


そして、いよいよシミュレーターでの検査。私は緊張しながら機械の前に座った。予想していた架空の道路でのドライブとは全く異なる画面が目の前に広がり、一瞬戸惑いを覚えた。

 


検査は一連の課題を2、3回繰り返す形で進められた。まず、画面上の輪の外側にある赤い印を追いかける課題。赤い印が輪の周りを不規則に動く中、私はハンドルを慎重に操作し、内側の黄色い印をそれに合わせようと集中した。

 


次に、アクセルとブレーキの操作テスト。赤い棒が上下に伸縮するのに合わせて黄色い棒を動かすため、アクセルを踏んだり緩めたりする。微妙な力加減を要求されるこの課題に、私は何度も挑戦した。

 


そして、危険予知の検査。画面の周囲に現れる青い丸の中から、突如として赤い丸が出現する。その瞬間を見逃さず、全力でブレーキを踏む。まるで実際の道路で人が飛び出してきたかのような緊張感の中、私は反射神経を研ぎ澄ませた。

 


最後は、認知能力と判断力のテスト。画面のあちこちに青い丸が現れ、その中に一瞬だけ文字が浮かび上がる。その瞬間を逃さずボタンを押し、さらにその文字が何だったのかを四つの選択肢から選ぶ。

 


これらの課題を何度も繰り返す中で、私は徐々にコツを掴んでいった。最初は戸惑いもあったが、回を重ねるごとに自信が増していくのを感じた。シミュレーターの画面に向かいながら、私は自分の能力が確実に回復していることを実感し、心の中で小さな勝利を噛みしめていた。

 


約30分後、検査員の言葉が静かに響いた。
「左手の回復を期待しています。シミュレーターでは1回ミスがありましたが、全て合格ラインです。これからは無理のない運転を心がけてくださいね」

 


その瞬間、妻と目が合った。彼女の目には喜びの涙が光っていた。
部屋を出て、妻が小さな声で告げた。「あなたの様子を見ていて、私、本当にハラハラしたわ。でも、ほとんど完璧にできていたのよ」
その言葉に、私たちは思わず笑みを交わした。

 


薬のことが全く問題にならなかったことへの安堵感も、二人の間に静かに広がっていた。

 


次は免許更新。毎週金曜日の午後1時からあるという情報を得て、さっそく予定を立てた。

 


帰り道、車窓から見える景色が、来た時よりも鮮やかに感じられた。妻の運転する車の中で、私たちは静かに語り合った。一つの山を越えたこと、そしてこれからも一歩一歩進んでいくことを。

 


春の陽光が車内に差し込み、私たちの新たな旅路を柔らかく照らしていた。私の心の中では、再び運転できるという希望が、静かに、しかし確かに芽生えていた。

 


骨折して入院し、仕事を休んだ日々を経て、今はただ、以前のように運転できるようになることが私の望みだった。それは大きな夢ではないかもしれない。でも、今の私にとっては、かけがえのない目標なのだ。

 

 

 

 

 

 

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